個人から法人成りの税務(賃貸の場合)

個人事業主から法人成りした場合の税務の第2弾として、今回は、固定資産を個人事業主の所有のままにして、法人へ貸与する場合について説明します。

※売却の場合はこちらを参照ください。

固定資産に関しては、個人事業主から法人へ売却する方法と同様に、今回の賃貸する方法も一般的な方法であるといえます。

個人事業主側の処理(所得税及び消費税)

法人成りによって、個人としての事業は廃業になりますが、不動産賃貸業として新たに業務が始まることになりますので、廃業後は不動産所得の申告が必要になります

消費税の申告も同様に必要となりますが、賃料の年間金額が1,000万円以下になれば、その年の2年後からは消費税はかからなくなります。

法人側の処理(法人税)

法人側としては、個人へ賃料を払うことになり経費に算入することができます。購入した場合も減価償却費として費用計上できますが、土地については償却することができないため、多少の節税になることが考えられます。

留意点

1.賃料を相場より高く設定した場合

賃料が相場よりも高い場合、法人側で役員(個人事業主)への賞与とみなされる場合があります。この時、法人税上で損金不算入となる可能性がありますので留意が必要です。

2.賃料を無償とした場合

貸主(個人事業主)側では、収入が発生しなくなるため、特に申告の必要がなくなります。不動産所得においては、無償で貸付をしたとしても、相場相当を収入として認定するような規定はありません。

一方で法人側で、多少の問題が発生します。
→長々と記載しますが、結論としてはきちんとした手続きを踏むことで問題は解決することができます。

土地に関しては、無償で貸与したとしても、それを使用する権利、つまり借地権が法人側で発生します。通常はこの権利に見合う対価を支払うことになるのですが、無償の場合は法人で以下の仕訳が発生し、益金が計上されます。

借地権 / 受贈益

※この時の借地権は時価に借地権割合を乗じたものとされます。
借地権の認定課税

ただし無償で借りている土地は、借地借家法の適用がなく、地主からの求めがあれば無償で土地を返還する必要があります。よって、実質的に上述の借地権は権利としての価値がなく、このような権利の取得に対して課税するのは不公平との考えより、法人税法上は以下の要件を満たすことにより、権利を取得した側(法人)で益金が発生しないこととされています。

①契約書において、将来借地人がその土地を無償で返還することが定められている

例えば以下のような記載になります。

「土地賃貸借契約を解除する際は、借主は貸主に対し、何らの対価を求めず、本土地を無償にて返還するものとする。」

②「土地の無償返還に関する届出書」を借地人と連名で遅滞なく貸主側の納税地を所轄する税務署長に提出している場合

この手続きをとることで、個人事業主から法人へ無償で貸与することが可能になります。

ただし、

無償で貸している土地は、相続税の計算の時に借地権部分を引くことはできませんし、小規模宅地等の特例を利用することもできなくなります。

すなわち、相続税が高くなる可能性が高いということもご留意ください。

上述のように、一定の手続きさえすれば、法人成りの際に資産を有償もしくは無償で賃貸するという方法も考えられます。一方で、個人事業主側で申告が引き続き必要になることや、相続等が発生した時に権利関係が複雑になる可能性を考えると、資金繰りが苦しい、設立間もないころは賃貸にして、事業が安定したころに買い取るという方法が良いのかもしれません。